滅菌管理業務におけるトレーサビリティ白書2024 を公開

滅菌管理業務におけるトレーサビリティ白書2024

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 手術や処置に使用した再使用可能医療機器(reusable medical device、以下RMD)の再生処理に
は、洗浄、消毒、点検、組立、包装、滅菌、保管、供給などのさまざまな工程があり、多くの項目に
ついて確認、記録をしている。さらに再生処理されたRMD は患者に使用されるまで適切な管理が求
められるため、滅菌管理部門だけでなく使用部門も含め医療施設全体で品質管理に取り組まなけれ
ばならない。
 近年、医療施設の経営状況は厳しさを増しており、滅菌管理部門も十分に経済性、効率性を考慮
して運営しなければならないが、手術件数の増加に伴い、取り扱う機器の数や種類が著しく増加す
るとともにロボット支援手術に代表されるようなデバイスの高度化、複雑化が進み、滅菌管理業務
への負荷が増大している。再生処理の品質を落とすことなく、いかに業務の効率を上げ、人的負担
および運営にかかるコストを軽減するかは全ての医療施設の課題となっている。これを解決するに
は滅菌管理業務を正確に把握し分析すること(見える化)が必須であり、業務をできる限りデータ
でとらえる必要がある。そのためにさまざまな作業をデータ化し、記録することができる滅菌管理
システム(以下トレーサビリティシステム)を活用することの意義は大きい。
 さて、トレーサビリティシステムは、現在、複数のシステムが国内で提供されており、導入する医
療施設が増えつつある。しかし、その仕様や規格は標準化されておらず、さまざまな装置との連携
をおこなうことが難しい。また、運用実態の報告も少ないため、医療現場としてはどのように導入
し運用すればよいか判断に苦慮しているのが現状である。2019 年には「医薬品、医療機器等の品質、
有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)が改正され、医薬品、医療機器等
をより安全、迅速かつ効率的に提供するために制度改善がおこなわれ、トレーサビリティの向上が
図られることとなった。この法改正を受け、今後、トレーサビリティシステムを提供する製造・販売
業者が増えると予想され、医療現場では選定の選択肢が増える利点はあるものの、逆に選定時の混
乱も増すと考えられる。
 そこで、本研究会では医療現場がトレーサビリティシステムの導入を検討する際に参考にできる
ガイドを作成することとし、まずは国内の現況を把握するための調査をおこなった。システム提供
元、システムとの連携が望まれる装置の開発元、あるいはトレーサビリティ確保のためのツールや
デバイスの提供元など、トレーサビリティに関連する企業に広く調査への参加を呼びかけ、多くの
回答をいただくことができた。この場を借りて御礼を申し上げたい。
 今後、医療現場のニーズや運用方法について調査をおこない、その内容も報告していくとともに、
滅菌管理業務に付随する一連の情報をシームレスに連携するために必要な仕様について、検討を進
めたいと考えている。この報告を多くの方に読んでいただき、トレーサビリティシステムへの理解
が深まることを期待してやまない。

2024 年12 月
一般社団法人日本医療機器学会
病院サプライ研究会
委員長 久保田 英雄